◆ ベルギー カラーダイヤモンド買い付けレポート 2005年2月 Page: 1 2 3 4 5


2005年2月7日午後7時過ぎ、
Antwerp Carlton Hotel、
1Fロビー横、バーカウンター、
ようやく1日の仕事が終って、くつろぐ姿に漂う哀愁。
大阪にいる時は、帰宅する前にちょっと一杯なんてほとんどやらないウッキーなんだが、買い付けに来るとホテルの部屋に戻る前に少し酔わないとやってられないという気持ちになって、ほぼ毎日バーのとまり木に落ち着いてしまう。

酒は強くない。
ここに来ても、ベルギービールの小さなボトル1本、スコッチのロックをほんの少し、その程度である。
つまみはイスラエル産のオリーブの漬物と決まっている。

※ オリーブの漬物
日本でも小さなビン詰を見かけるようになったり、ピザのトッピングに使われたりするが、あまり日本人の好みに合わないものの一つだろう、ワインやウイスキーと一緒じゃないと口に入れられないという気もする。ウッキーは以前(15年くらい前)イスラエルにゆくたびに缶詰になったものをよく持ち帰って洋酒のツマミにしていた。黒いものとOlive Green(Fancy Gray Green)のものがあって、種入りと種抜きがある。若い頃は当然(?)種ありが良かったが、近頃はいちいち種を出すのがメンドウになって種無しの方を好んでいるウッキーだ。


こぢんまりしたホテルのこぢんまりしたバー、
さしたる雰囲気があるわけでもなく、ユニークなカクテルが飲めるわけではない、極めて地味な場所でありながらついつい足を運んでしまうのはどういう訳なんだろう?
今日この時間に流れるBGMはビージーズ。この前はシーナ・イーストンだった。我々の世代が学生時代に聞いていた英米ポップスを毎回聞けること、これに惹かれているのかもしれないね。一言でいうなら、
“何だか とっても 心地よい”
思わずウッときて、酒が逆流しそうになった。
広告ばかりの女性雑誌をペラペラめくると何処其処に溢れている陳腐な言葉しか出てこないこと、どうかお許しを。
今日のバー担当はNew faceのヤングガイ、典型的なベルギー人のルックス、ソフトで大人しそうだが、若者らしいワイルドなギラギラ感もムクムク感(!)もないタイプ。
ウッキーにヘンな趣味はないけれども、こういうのが目の前にいるとついつい酒の肴にしたくなる、別にいたぶるわけではなくて、いろいろと質問攻めにして反応を楽しむわけだ。
今日のトピックは‘バレンタインデー’。
来週月曜が2月14日ということで、ホテル1F入り口横にあるGodivaショップは、赤いハートの飾り付けとハート型パックで一杯だ。ご存知のように、バレンタインデーに女性から男性にチョコを贈るというのは日本だけで、本家・ヨーロッパではそんな約束ごとはない。贈り物がチョコレートとは決まってないし、恋人同士がプレゼントの交換したり、男性から女性にというのも全くノーマル。当然ながら『義理』なんていうものも存在しない。

というところで、
早速にここのところを追及。
「バレンタインデーには彼女に何を贈るんや?」
「No, I don’t have a girl friend.」
な?!
若いくせに情けない奴、
『君なあ、ちょっと積極性に欠けるんちゃうか・・』
と酒が入った勢いでついウッキー節になるのをグッと堪え、心なしか彼の表情が最近負った心の傷を物語っているようにも思われ、少しチェンジ・オブ・ペース、
「バレンタインデーは何で2月14日なんや?」
と問いかけたのであるが、
日本の若者と同じように、“そんなこと、どうでもええやん”という顔をされてしまったのであった。
しかしウッキー以外に全く人の気配のないバーラウンジ、彼にとっても暇つぶしに適当なんだろう、少し考える様子のあと見解を述べてくれた、
「聖バレンタインが殉教した日とかって言われているけど、思うに、寒くて売れない商店が始めたことじゃないかなあ」

なるほど、年末年始のバーゲンが終って、春はまだ遠い、もし2月にバレンタインデーがなかったら小売店はとても困っていることだろう、ホンマGoodアイデアやなあ。

しかしねえ、ヨーロッパで若い奴からそんな‘謂れ’を聞くというのは全く夢がなくて“興ざめ”でございますねえ。

さて、今日は何があった?
いつものようにL氏を訪問。
Sによると、L氏は今アントワープじゅうのブルーを買い漁っているとか。漁るのだから結構よい値段を払うのだろうね。そんなことで一段とブルーを見るチャンスが減っているというわけだ。
賢いL氏が一体何を企んでいるのか? 深く考えるとますます解らなくなる。ひょっとしたらアナウンス効果を狙っているのかもしれないね。

買っていると見せかけてポーズだけ、市場価格を引っ張り上げて在庫を高値で売り抜ける?
工業製品ではないのだから流通量に限度がある、もともと極少量のモノの値段が高止まりしてしまうとも考えられ・・・。
いずれにしてもL氏は儲かる。
こんなことを出来るのは資金が豊富で、多くの在庫を長く抱えていられるせい。ウッキーには絶対に真似のできないこと。
しかし、Sも言ってたけども、値上がりによって、そうそういつまでも多くの消費者に支持はされまい、とは考えないのか?
“珍貴なもの”をコレクションする人は常に存在する、
L氏はそう強く確信しているに違いないのだろう。

買いに一所懸命で売る方に積極的でないL氏、
結局たいして買うものもなかったが、何もなしでは次に繋がらない。安いレンジのピンクメレ、1包み約300crtsという巨大ロットを、えいやっ! と・・・、買うわけおまへん。しょぼい話で申し訳ないが、そのロットをSの事務所に借りてきて、ほんの10crtsほどをSelection、ホンマしょぼい話やねえ。しかし、いつも言うてるように、このSelectionアソートという作業は大変なんですぞ! 300crtsというと、1crt石でも300個だ、これがメレでっせ、一粒が平均0.03crtとすると、300÷0.03=10,000、1万個のメレをアソート!
アンタ出来るか?
プロでも嫌がるこの作業、ウッキーはやりまっせ、今日びこれくらいやらんと儲かりまへん。
しかしねえ、流石のウッキーでもいっときに300crts見るのは重労働、疲れる仕事だ。
まず、約25%くらいの不要サイズを外す、これはダイヤの直径に合わせた穴あきプレートがあるので、ザルに入れてザーっと濾す要領だ、そんなに時間は掛からないがプレートの大きさは直径約7,8cm、ザルのような大きなものはないので、300crtsもあると、濾すだけで15分くらいはかかる。
その後いよいよアソートの開始。始める前はそう苦にもならないけども、2時間ほど経過してやっと半分くらい?という現実を目の当たりにすると、途中で投げ出したくなる。いつまで経ってもピンセット&ルーペさばきが下手なSなんかにやらせたら1週間でも出来ないんじゃないかなと思う。4時間ほど掛けてようやく終了。
フーっ、
辛い苦行と修行の旅である。

ここ1、2年で大きく様変わりしてしまった観のあるダイヤモンド輸入卸の世界である。
以前にも少し触れたが、多量の商品とともに大挙して来日するユダヤ人とインド人のせいで、我々バイヤーが介在する必要性は薄れるばかりだ。
サラリーマン時代のかつての部下も先月ついに独立、十数年間バイヤーとして活躍し、イスラエル人ダイヤモンド・ディーラーとの独自のルートを確立していた彼であるが、そのイスラエルの会社の日本代理店となったようである。
彼のように、ダイヤモンド・バイヤーを止めてしまったわけではないけれどもバイヤーとしての経験を生かして次のステップに進む転職転進組ばかり目立つ昨今の情勢。極端な話、バブル時代にその全盛期を迎えた典型的ダイヤモンド輸入卸商というのは、今ではほとんど見られなくなってしまった。

典型的ダイヤモンド輸入卸というのは、
ベルギー、イスラエル、インド等にバイヤーが直接赴き、ブライダル用のものや大粒高額商品を買い付け、AGTや中央宝石研究所などのグレードを付け、指輪やネックレスに加工することなく、デパートや小売店を顧客に持っている問屋に、裸石を卸しする、ということである。

それらがどうなった?

いずれも海外の業者とのつながりを保ち、彼らから商品を買っているには違いないが、
資金力のあるところは自社で小売店舗を持つようになり、
研磨に詳しい者は、職人を雇い、海外業者と組んで原石を買って研磨して裸石をかつての輸入屋に供給する側に回り、
インド市場に強いものは、K18WGを枠に使った安い商品のプロデューサーとなり、
ウッキーのような能があっても爪を隠しているものは、カラーダイヤ専門となった、
というわけだ。

もはやDEF VVS EX・・とかっていう所謂クリニッシュと呼ばれる商品を買うために海外出張する意味は皆無。そしてそれら以外のほとんどのアイテムも東京・御徒町か大阪・南船場で揃ってしまうという現実、ユダヤ人やインド人に顧客を奪われたくなかったら値段を一段と安くするか特殊アイテムをやるしかなくなってきたダイヤモンド輸入卸業。
電話やメール、Faxでその品質がなかなかうまく表現できないアイテム、すなわちテリが微妙でキズの多い商品とカラーダイヤが、我々ダイヤモンドバイヤー“最後の砦”となってしまったようである。

 

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◆ Back Number ◆
2005.07 Cut & Polished in Belgium
2005.04 ルフトハンザで出国
2005.02 オリーブの漬物
2004.11 ベルギーの初冬
2004.9 上手なブラフの使い方?
2004.8 2004アジアカップ
2004.4 ゴールデンウィーク に オランダ を想う・・・。
2003.11 Believe me!
2003.7 Vacances!
2003.5 日本とベルギーの規範
2003.3 ベルギー名物と言えば
2002.9 空港のネーミングについて
2002.5 ワールドカップ
2002.3 ひな祭り
2002.2 ユーロとトラブル
2001.12 プリンセス雑感
2001.11 ニューヨークの思い出
2001.9 不景気とは
2001.7 女子テニスプレーヤーというのは宝石だらけで戦っている・・・。
2000.4 ファンシーカットの好みは各国でかなり違うようだ・・・。
2000.2 天然の物が相手になるがゆえのつらさ、というのが常にある。
1999.12 私はダイアモンド業界ではゴルフの世界の尾崎みたいなものだ、といって自己紹介することにしている・・・