◆ ベルギー カラーダイヤモンド買い付けレポート 2005年4月 Part1 Page: 1 2 3 4 5


2005年4月3日、
Brusselsナショナル空港。
ようやく開花した桜に送られるように大阪を飛び立って16時間。
夕方というのにやけに温かいベルギーである。迎えに来てくれたSは半袖のポロシャツ、気温は20度以上ありそうだ。明らかに大阪よりは春めいて気持ち良い空気に驚きを隠せない。

それにしてもしんどいフライトだった。
前回ルフトハンザで帰国したものだから、今回の往路はチケットの復路、同じくフランクフルト経由のルフトハンザ。大阪発がKLMよりも1時間ちょっと早いのだけれども、長年の習慣でこれまでと同じ時刻に家を出て空港バスに乗ったものだから、関空のルフトハンザ・チェックイン・カウンターの前は長蛇の列。結局、搭乗券を貰ったのはほとんど最後の方で、座席は、な、なんと“E”という窓でも通路でもない、とっても息苦しいところ。
卒業旅行のシーズンも終ったし、ゴールデンウイークを間近に控えた4月初旬に休みを取って海外に行く奴もそうそうたくさんおらんやろうとタカをくくっていたのが大間違いだった。ヨーロッパはイースターの休みで、しかも対円では今強烈なユーロ高なんですな、ドイツ人を中心としてフライトは満席、もう諦めて辛抱するしかない。

ウッキーの左側にはドイツ人の少年、右側にはドイツ人の男。
どうでもいいけども、こいつらヤケに難しそうな本を読んでいやがる。写真と絵からしか判断できないけども、どちらもサイエンス系で、地球やら惑星の図が並んでいてね。
こういう知的な空間でおもむろに、デカい写真と見出しばかりのスポーツ紙を開くのは“なんだか とっても 低脳的”、でございますねえ、空港ロビーで読み捨ててくればよかったと大いに後悔。

関空を離陸して3時間、
機内食も終って、あとは寝るだけだが、はたしてどれだけの眠りを得る事が出来るだろうか、非常に不安なウッキー。
こんな苦しい席に座らされたのはいつ以来か、多分20年ぶりくらいだろう。当時はまだ20代、海外にゆければ何でも良かったから大して気にもならなかったが、この歳では12時間のLongフライトに耐えられるかどうか。エコノミークラス症候群にかかって緊急帰国となったらどうしてくれる!
ウッキーの妻子が困るだけではスミまへんでえ、ウキ・カラーダイヤを待つ多くのファンにも多大なる迷惑が・・・、

などなどと考えていたら思わぬ僥倖が!

一体、日本に何をしに来たのか知らないけども、ひょっとしたら何かの天才少年で日本のテレビ局が招待したのかもしれないが、左側のドイツ人少年(どう見ても11〜12歳くらい)は同じ年頃の友人と二人だけで帰国の途中。片方の子がずっと後方の通路側に座らされていて、ウッキーに席を替わってくれないかと言ってきたのである、やはり日頃から行いの良いウッキーでございますね。
文句のあろうはずはない、客室乗務員に手荷物持たせ、嬉々として移動するウッキーであったのだ。

しかし流石にドイツの少年やねえ、こちらはドイツ語なんてサッパリだから、英語で少し質問したのだけども、それに対して英語で適確な答えが返ってきたのには感動だ。日本の小学校5、6年生の年齢でっせ。日本じゃ、挨拶もロクに出来ない子供たちが多いと嘆き節が聞かれているのにね。

それから約1時間後、通路側の席でホッとひと息、ウトウト寝かけていたら、
「Excuse me」
何かと思って目を開ければ先ほどの少年、手にはサンケイスポーツ、ウッキーが読み終わって最初の席の前のポケットに置いてきたやつだ。
『金本1500本安打』のデカい活字と頼もしきアニキの姿が躍動している!
「忘れ物です」
「お、おおきに・・・」
ガラにもなく赤面のウッキーであった。

ホント賢くて良い子たちだったねえ。

最近はメンドウなので、機内では寝るか本を読むか、隣席の見知らぬ人と会話することもほとんどなくなったが、10年以上前はよくそのような機会を持っていたような気がする。

隣席の人と話が始まると、
旅行か仕事か?
どんな仕事で?

というふうにならざるをえないから、できるだけ日本人女性との会話は避けたいウッキーである。
どうしてって?
想像してみて下さい、約12時間のフライト、時間はタップリだ、隣にダイヤモンドのバイヤーが居たらアンタどうする?
実際、「ダイヤモンドのバイヤーです」と言った瞬間から日本人のご婦人から強烈な質問攻めにあったのは1回や2回ではないのだ。
『三越でこれこれこんなのを見たのだけども、どうかしら?』
『心斎橋の大丸の外商さんが1カラットのダイヤを持ってきたけども、ナンボくらいが適正な値段?』
勝手にしやがれ、お前らゼニが余っている者は、せいぜい高い値段払って日本経済に貢献しろ!
ってね、言ってやりたいけども、そうもいきまへん。
かと言って、こちらの買値売値もあるし、ホンマのところを話すわけにもゆかない、狭い業界ですから、どこでどう話が繋がるやらというのもあるし。

ところが、この種のご婦人方がおもしろいのは、こちらの答えをさほど期待していないところ。友人たちにジュエリーコレクションの自慢をするのはやはり少し気がひけるのだろうし、日本ではそうそう高額の宝飾を身に付けてゆくところも日常的にあるわけではない。我々バイヤーというのは、彼女たちにとってカッコウのしゃべくり相手ということになるようなんですな。
『私ねえ、いろいろ持っているけども今度加工頼む時は、ダイヤのメレをマルチカラーで使って、少しゴージャスなものを作ってみたいの。今までシンプル系ばかりだったからちょっと気分を変えたいと思って・・・』
『たまにはそういうのもええかもしれまへんな』
『センター赤星じゃないけども、真ん中にはルビーとか赤い石入れてね』
『赤星は小粒でっせ』
『そうそう、小さくてもピリッと光ってるものね』
 (アカン、乗せてしもた)
『そういう加工って、高くつくのかしら』
『まあ、職人のレベルにもよるし、メレの量にもよるし・・』
『5万くらいでは無理かしら』
  (あのなあ、地金代にもならんぞ)
『私ね、高額品も結構あるから、泥棒に入られたら大変でしょ』
  (そんなこと知るか、セコム入れとけ)
『だから、本当に大切なものは冷凍庫の中に入れてあるんです』
『冷凍庫? マイナス10度で冷やすとダイヤの色が変わりまんのか?』
『そうじゃなくて、泥棒は冷凍庫の中まで見ないってこと』
 (宝石ドロ氏も読んでるかな? ここで書いてしまってもええのかという気になるが)
『さぞや凄いコレクションなんですな』
『そうね、でもこの前1crtのDカラーIF買ってもらったからダイヤはもう
いいわ、珍しいカラーストーンとか・・・』
――奥様のお話は延々と続くのであった・・・


  続く −

つづきを読む

◆ Back Number ◆
2005.07 Cut & Polished in Belgium
2005.04 ルフトハンザで出国
2005.02 オリーブの漬物
2004.11 ベルギーの初冬
2004.9 上手なブラフの使い方?
2004.8 2004アジアカップ
2004.4 ゴールデンウィーク に オランダ を想う・・・。
2003.11 Believe me!
2003.7 Vacances!
2003.5 日本とベルギーの規範
2003.3 ベルギー名物と言えば
2002.9 空港のネーミングについて
2002.5 ワールドカップ
2002.3 ひな祭り
2002.2 ユーロとトラブル
2001.12 プリンセス雑感
2001.11 ニューヨークの思い出
2001.9 不景気とは
2001.7 女子テニスプレーヤーというのは宝石だらけで戦っている・・・。
2000.4 ファンシーカットの好みは各国でかなり違うようだ・・・。
2000.2 天然の物が相手になるがゆえのつらさ、というのが常にある。
1999.12 私はダイアモンド業界ではゴルフの世界の尾崎みたいなものだ、といって自己紹介することにしている・・・