◆ ベルギー カラーダイヤモンド買い付けレポート 2005年7月 Part1  Page: 1 2


2005年7月4日、
リッツでもリッチでもないAntwerpカールトンHotel、

今どき“蛍光灯”などと言っても、若い人たちには『部屋の明かりがどうした』くらいにしか思われないだろうし、やることないヒマ人に違いないこのページの読者の皆さんには、ウッキーが“蛍光性”と書こうとしてミスタイプしたと推測されることだろう。

我々が10代の頃に『お前ほんまにケイコウトウやな』なんて言われた日には、屈辱で鼻の穴と全身の毛穴という毛穴が目一杯開ききってしまうか、もう自己嫌悪で自殺したくなったものでありますねえ。
最近の照明というのはホント優秀でございまして、もちろんエジソン博士が発明したオリジナル版・丸〜い裸電球やランプの灯の方が情緒があっていいという人もたくさんいらっしゃいますけども、だいたいがインバーターというのでしょうか、スイッチをONにすると即座にポッと明るくなる。
ところがですな、このリッツでもリッチでもないカールトンホテルの部屋の照明ときたらもう素晴らしくケイコウトウ、壁のスイッチにタッチしてバスルームに入り、便座カバーを上げて粗末なモノを摘まんだ頃ようやくチカチカが始まる次第。どうせオランダのフィリップスあたりの製品だろうけども、こういうものをいつまでも平気で使っているベルギー人の感覚は我々とは随分と異なるものでありますねえ。
い〜や、それとも我々日本人があまりにも時間に急き立てられ過ぎているのか?
照明ひとつのことで便器の前にしばし立ちつくすウッキーなのであ〜る。

外国との文化的な相違に関してはひとまずおくとして、しばし世代論。
何千年も前の古代文字を解読したところ、
いきなり『今日びの若い者は・・・・で、ホンマにもう・・・』という文章が現れ研究者たち一同大爆笑だったそうで、“今の若いモンは・・・”なんて言い出したらオッサンの証明でしかないけども、批判を恐れずに書けば、今日びの若いモンはある意味かなりの蛍光灯じゃないかと思う。現代日本の若者を見ていると感度が鈍すぎやしないかと思われることが往々にしてあると感じまへんか?
自分の部屋に引きこもって外に出ないというのなら別段影響もないが、公共の場でケイタイ片手に自分の世界に没入、全く周りが見えてないというのはホント困りモノ以外の何物でもないですな。特にこの蛍光、ではなかった、この傾向、二十歳前後の女に多いのは一体どういうこと?!
ウッキー世代から少し上の親のせい。小さい頃から甘やかしてきたせいだろうね、蝶よ花よと(ブサイクなのに)。人の往来が激しい所なんかでも構わずにゆっくり歩いてケイタイ操作、なんかはまだマシな方で、電車の扉付近に座り込んで動こうとしないバカもいる。この前そんな馬鹿女の肩をカバンでコ突いて『邪魔や、どけ』と物静かに諭したウッキーでありましたが、それに対して“なんやの、このオッサン”というような脹れっ面で目を剥かれたのには流石のウッキーも唖然でございました。
こんな若者を作った元凶は何や?!
ウキ世代などの親たち、そして、ケイタイに代表されるテクノロジーの進歩?!
ノンフィクション作家の柳田国男、ちょっと待って、この柳田さんは『遠野物語』の方ですな、ノンフィクションは邦男さんの方、この邦男さんの新刊で“壊れる日本人、ケイタイ・ネット依存症”とかっていうような題のものがある。いつかはこんなような著書が登場するだろうと思ってたけど意外に遅かったような気もするね。
日本人が壊れるなんて想像したくないけれども、確かに、ケイタイ・メールに頼らないと友人との会話もままならない、ケイタイで四六時中友人と繋がってないと不安で仕方がないという若者に、まともな言語能力や文章構成能力、そして若者らしい感度を期待するのは無理な相談に違いおまへんな。
歩道をトロトロ歩きながら、電車のドアの前にドカッと座り込みながら脇目も振らずケイタイに向かう姿には若者の闊達とした動きの良さは全然ないですね。そこにあるのは、人として感じなければならないことを放棄した単なる生命体。こんな奴らのあまりにも無機質な表情を見てゾッとしたことは誰でもあるはず、人間なら見て感じるはずの色も彼らには見えていないかのよう。色を見ることすら出来ない白黒の世界に生きている可哀相な犬のような生き物。犬なら蹴飛ばしゃどっかへゆくけど、この犬のようであって犬じゃない生き物たちは時々逆ギレというのを起こしますから、ホンマ難儀としか言いようがない。

彼らに若者本来の感度を取り戻させ、色を感じさせるには一体どうすれば良いのか? 18禁では生ぬるい、勤労者以外はケイタイ使用を禁じる、するとケイタイ使いたいがために不真面目な大学生が減り、働く若者が増える→購買力、購買層の拡大→企業収益の拡大→景気拡大、どうですかこの図式、完璧モデルやおまへんか、ええことずくめや!
いやマジな話、若者は禁ケイタイ、これしか方法がないような気がするね。
蛍光灯の時代には今のようなホンマのケイコウトウは少なかったように思いまへんか。
感度の鈍いケイコウトウを減らすには、蛍光灯より以前の超アナログな環境に若者を放り込むしかなさそうや!

読者の方ならご存知のように、このカラーダイヤの世界というのは誠に感性の極み。Fancyと言っても淡い色、ホンの僅かな色に対してもLightとかVery Lightとかというようなカラーグレードを付け、ホワイト系のダイヤと区別してるのやからね。
こんな世界に興味を持った人に感度の悪い奴、ケイコウトウなどいるわけがない。
ウッキーはヒマ人読者の皆様に多大の敬意を払っておりますぞ。


7月5日、
Antwerp Hoveniersストリート(ダイヤモンド街)、
異常気象という言葉が当たり前のこととなって、異常気象が異常でも何でもなくなっている事態を異常と感じないといけない。
この空はどう見たって日本の梅雨空だ。
Fancy Light Grayの雲が低く垂れこめ、覆いかぶさってくるかのようにゆっくりと移動している。

比較的つぶの大きな雨が一定のリズムであたりを叩いている。
天候の東アジア化。
Antwerpで初めて傘を使った。
20年目にしての快挙?!
信じられないでしょ、年間の降水量は全く微々たるベルギーであったのに。オフィスには置き傘どころか傘立てもありまへん。
しかし今日の雨、ホント半端な雨じゃなかった。恐らく1時間に20〜30ミリとかいう大雨。ダイヤモンド街は人通りが途絶え、気にせず通りを歩いているのは“雨男”ウッキーとデリバリーのにいちゃんくらいのもの。ユダヤ人、ベルギー人は雨に慣れないものだから、ちょっとの雨でも濡れるのを実に嫌がる、こんな折りに出歩く者は皆無。インド人は、ここぞとばかりビルのロビー付近に雨宿りして仲間と喋くりまくって雨を楽しんでいる風情だが。
西ヨーロッパの天候が東アジア化し、日本本土が熱帯化、行きつく先は何なのだろう。
考えれば考えるほど恐ろしい未来だ。

さて、時の移り変りに従って業界が大きく変化して行くのは仕方のないことだけども、誠に残念なことに、今どきのAntwerp研磨職人は高額のダイヤしか研磨しないそうである。
な、なっ、にーーーーーーー、
でありますね。
現在メンバーページで連載中の『Antwerpの歴史』、この執筆のために知り得たアントワープの職人技というのは、それはそれは凄いもの、他のヨーロッパの都市の追随を全く許さぬ圧倒的な技術力と芸術性、それらは(彼らは)我々の想像をはるかに超えるものだったようだ。しかし、それも今は昔、なんやねえ、ガクッ。

現在のアントワープの研磨職人たちは何を研磨している?
最低ラインが1カラットのDEFカラー、VSクラスだそうです。
それでは、その他大勢は何処へ行って綺麗にしてもらう?
何とマア、ショッキングなことに、中国じゃ!
ホンマ、世も末やでえ。

どうしてこんな事態になった?

言うまでもなく、職人に払う工賃に歴然とした差があるから。
アントワープの平均的な職人の工賃は、1カラット当り$70。中国へ送ってやらせると$30だそうだ。ちょっとした量になると送料や保険代を考えても圧倒的に安価やね。
しかし、しかし、そればっかりではないだろうって?
確かに。
少々高くたって僅か40ドルの差、商品の出来栄えが違うなら十分に売り値に反映できるだろうと考えるのが普通やね。
ところがですな、
クソッたれ中国人ども(この下品な表現何とかならないのかって? 昨年から中国に言及する時の枕言葉となってしまったのです、手が勝手に動いている、どうかご勘弁を)は、我々が思っているよりも優秀。いつの間にやらハイレベルな研磨技術を身に付けたようで、ウッキーのようなカッティングにそれほど気を使わないカラーダイヤ屋ではAntwerpモノと全く見分けがつかない出来栄え。


それでもやっぱりAntwerpの職人にやってもらいたいというファンも多いに違いない、と思うのであるが、
困ったことに、最近のアントワープ職人は仕事を選り好みするのだそうです、なんちゅうこっちゃ、抹茶に紅茶。
1crtのモノを研磨すれば$70なんだけれども、0.5crtであれば$35にしかならないし、0.3crtでは$21にしかならない。
1crtを研磨する際にはそれなりに気も使うだろうけども、所要時間にそうそう差があるわけでもなく、いやひょっとしたら小粒の方が時間掛かるかもしれんね、そんなやこんなでAntwerpの職人たちは小粒のものを研磨してくれなくなったというのが実情。
そんな姿勢でええのか!
カネ、かね、金・・・銭金ばかりが人生か!
苦労して今の地位を築き上げた先人の苦労を少しは考えろ!!!
と言いたいですなホンマ。

それでは今後どうなるのでしょう?
伝統あるAntwerpのダイヤ研磨業界に未来はあるのか?
S兄曰く、
「もちろん市場としてのアントワープは健在、原石ディーリングの80%がここAntwerpで行われているという意味は小さくない。しかし、研磨職人として若い世代が育っていないということが大きな問題。市場はなくならないが、職人は確実に減り続け、そのうちにいなくなるだろう。残念と言うしかない」
ク、クッ、クッ、と泣けてくるねえ。
かつて、ベルギーからの輸入されたダイヤの小さな包みには誇らしげに、
Cut & Polished in Belgium
と印字されていてね、この表示のあるなしで売値に差がついたものだった。
まさかCut & Polished in Chinaとは表示されないだろうけども、かつての栄光を知る古い世代(に成りかけ)の一人としては力入らんようになりますな。


7月6日、
L氏事務所、
何のかの言いながらやっぱり来てしまうL氏事務所だ。
ホンマに銭ゲバ野郎だけども、こいつのレクチャーもたまには聞いとかないといけません。
大した商売にはならなかったが、ブルーダイヤの品薄を再確認。ここにロクなものがないということは、まあ何処に行ってもほとんど見つからないということになる。Light BlueやGray Blueの値段を聞いて開いた口が塞がらなかった、2,3年前の綺麗なFancy Blueと同レベル。L氏の買値が高いのか、それともそんな値段でも十分買っている業者がいるのか、L氏のイリュージョンなのか、そのあたりのところは判断が付かないけども、いずれにしてもハイ分かりましたと買えるようなシロモノではない。
少々お茶を濁して早々と退散。

ところで、
2012年のオリンピックがロンドンで開催されることになり、陸続きの隣国、パリでの開催を期待していたベルギー人はガッカリというところだ。
今日この日にシンガポールでIOCの総会が開かれてオリンピック開催地が決まるなんて大阪を発つ前は全く知らなかったのだが、ベルギーに到着してからこちらの新聞を覗き見ると連日パリだのロンドンだのと大騒ぎ、ちょっとしたカルチャーショックだ。
今日Sとともに訪問した別の事務所では、テレビを付けっ放しにしてIOC委員の投票の様子をしきりに気にしている様子だった。
シラク大統領のキツ〜い冗談、“あんな食いモンのマズイ国の人間(イギリス人)は信用ならん”というのがベルギーでは大受けだそうで、パリの敗因はこのシラク発言じゃないかともっぱらのウワサだが、結果発表前のAntwerpの人たちの意見や予測の大半はこれ。
『英国の食いモンで選手たちが体調悪くしたらどうすんねん』
『いや、大丈夫、マズーて食べられヘンやろ』
『食事どないすんねん?』
『自国から食材運んでコックも連れて行くんや』
『そりゃ、経費かかり過ぎちゃうか』
『せやからロンドンはアカンねん』
『なるほど、やっぱりパリで決まりやな』
という具合、
そんなアホな、
とお思いでしょうが、ホンマの話でっせ、ヨーロッパ大陸の人間は余程イギリスで辛い目に遭っているようですな。確かに、かの有名なワガママ・ラーメンもmade in Englandやしね。
開票前にウッキーはどう思う?と聞かれ、まあ別にどっちになっても同じようなもの、ほとんど関係ないけども、最近大きなイベントが英国で開かれてないような気がしていたから、フランスは1998年にサッカーのワールドカップやってるし、『ロンドンの方がいろんな意味で票を集めると思う』と答えたら、その通りになって、しばし鼻高々だったのであ〜る。
どうでもええことには見通し明るいウッキーなのだ、チャンチャン。
ロンドンの皆様オメデトウ、
せいぜい料理の腕磨いとけよ、ラーメン屋も日本人シェフ入れとけよ。

  続くー

つづきを読む

◆ Back Number ◆
2005.07 Cut & Polished in Belgium
2005.04 ルフトハンザで出国
2005.02 オリーブの漬物
2004.11 ベルギーの初冬
2004.9 上手なブラフの使い方?
2004.8 2004アジアカップ
2004.4 ゴールデンウィーク に オランダ を想う・・・。
2003.11 Believe me!
2003.7 Vacances!
2003.5 日本とベルギーの規範
2003.3 ベルギー名物と言えば
2002.9 空港のネーミングについて
2002.5 ワールドカップ
2002.3 ひな祭り
2002.2 ユーロとトラブル
2001.12 プリンセス雑感
2001.11 ニューヨークの思い出
2001.9 不景気とは
2001.7 女子テニスプレーヤーというのは宝石だらけで戦っている・・・。
2000.4 ファンシーカットの好みは各国でかなり違うようだ・・・。
2000.2 天然の物が相手になるがゆえのつらさ、というのが常にある。
1999.12 私はダイアモンド業界ではゴルフの世界の尾崎みたいなものだ、といって自己紹介することにしている・・・