◆ ベルギー カラーダイヤモンド買い付けレポート 2001年12月


2001年12月2日、アムステルダム、スキポール空港。
アントワープへの乗り継ぎ便を待っている。
ヨーロッパの冬は本当に暗い。
午後2時すぎというのにもう夕暮れ時のようだ。11月の後半小春日和の続いた大阪から来たせいで余計そう感じるのかもしれないけれども、毎日これが続いたらさぞうんざりするだろうなと思う。

今年7回目、本年最後の買い付けである。
思えばひどい年だった。
頻発する殺人事件、誘拐事件、
えひめ丸事故、大阪教育大付属小学校の惨殺事件、新宿のビル火災、
そしてテロ、、、。
こんな年は2度と来ないで欲しいと強く祈るばかりである。

でも出発前に実にめでたいニュースが入った。
新しいプリンセスの誕生である。
英国を始めとするヨーロッパの王室に比べとかく閉鎖的で地味な感のある我が国皇室であるが、逆にこのような時には大きな存在感を受けるのは何とも不思議というべきか、はたまた2000年の文化の重みと言うべきか。
なにはともあれ、重くたれこめた空から一条の光がパッと差し込んだかのようだ。
出張のさきがけとしてまことにゲンの良いことである。
プリンスであればなおの事良かった、などとは言うまい。
皇室典範を変えればよいことである。
即位後は持統天皇のように美しい和歌を詠んでくれるのだろうか、などどいきなり飛躍した想像をしてしまう。
でも彼女が皇位を継承するのを目の当たりにすることは私にとって可能性が低そうである。
最先端医学によって守られているであろう皇太子よりも年上であるのだから。

そう言えばベルギーにも先ごろNewPrincessが誕生した。
ほんの2、3週間前である。
日本とベルギー、両ロイヤルファミリーが親しい友人関係であるのは有名なところである。
日本の皇族はよく休暇でベルギーに滞在している。
重ね重ねめでたい、今日はこれでSと盛り上がろうか。

でも待てよ、
昨日のサッカーワールドカップの抽選会、日本とベルギーは同組に入ってしまったのだった。よもやと危惧していたら現実となってしまった。
私にとって最悪の組み合わせ。別にSに気を使っているわけではない。年に6回も7回も行っている国である。きらいなはずはない。自国の次にベルギーの応援をする事は自然と決まっていたのである。
日本が予選を3勝で楽に通過できるようなサッカー強国であれば何ら問題はない。前回初出場、まだ1勝もあげた事がないのにどう考えても1勝1敗1分けが関の山である。そうすると、得失点差で決勝トーナメント進出が決まるから日本と対戦しないベルギーを応援できなくなるケースも出てくるわけで、そうなるとゲームを見るのも実に味気なくなってしまいそうだ。
今日のSとの酒はちょっとヒートしそうやな。



午後5時過ぎ、アントワープ空港着。
相変わらずのSである、
出発直前にTELしてくるから何の用かと思ったら日本酒を買ってきてくれという。どうせ友人とのクリスマスパーティーで出すつもりなんだろうけど、有名な剣菱の1升ビンとか2リットルの白鶴さけパックを瞬間頭に浮かべた私は『勘弁してくれよ』と思ったのである。
でも待てよ、最近720mlのワインボトルサイズが結構出てたなと、
『OK, no problem』と返事した。


地元の酒屋で1本と空港にいいのがあったからそれも追加して2本も奮発したのに出迎えたSはれいによってれいのごとく私の荷物何一つ持とうとせず
『How much is the SAKE?』やて、
アホ、みやげじゃ、みやげ、長年の友人のお前から2、3千円取れるわけないやろ、まったくもう。

それにしてもSにはむかついた。
私がサッカーの話題を持ち出すと、
『ベルギーはメチャラッキーや、予選突破は間違いなしや!!』
と、手放しで喜んでいる。まあ、これが平均的なベルギー国民の偽らざる気持ちなんだろうけど、そんなら日本はどうなるんや、前回のビデオを見るが如く3連敗かいな。
もうベルギー応援するのやめとこ、次回から酒たのまれてもワンカップ大関2、3個や。

12月4日午前1時過ぎ、
まだ起きているのではない、先ほど起きたのである。
何度も言うけど、バイヤーというと優雅な海外出張を思い浮かべる人が多いみたいだがそれはバブルの一時期のことで、今はかなり悲惨なのだ。
買い付けに来ても思うように商品が集まらない、もちろん物はない事はないのだけど、日本の現状を考えるととてもこんな値段は出せない、というのが圧倒的に多いのである。最近はまるで苦行僧、がまん我慢の精神修行をしているようなものだ。
そして、私が個人的にいつも直面する難題は『時差ぼけ』なのである。
夕方から眠くなり8時半頃もう我慢でなくなってベッドに入ったのだが5時間と寝られなかった。毎度のことだから気にもならないがこの影響が明日の(今日の)午後に出てくると考えると憂鬱になる。

昨日は実にフラストレーションのたまる一日であった。
Argyleのピリピリピンクを求めて来たのに、つまらない物かバカ高い物しかない。
これやったら先月もっと高い値段つけといたらよかったな、と思っているのは私だけではあるまい。
予測はしていたから、ほんの数ピースでええからビシバシのものを、と小さな幸せを願って来たのに、、、、とてつもなく甘かった。
何人かのお客さんの顔が浮かぶ。
期待はずれでスンマヘン。

今回は皇室のおめでたに合わせてプリンセスカットでも買って帰ろうか。
こんなありきたりの事しか思いつかないアホな自分にあきれを通り越して笑いがこみ上げてくる、と言いながらやっぱり買うのだろう。
皆さん、HPやオークションで弊社のPrincessCutを見たときにはどうぞ大笑いしてやってください。
ああ、恥ずかし。

アフガンのみならずイスラエルーパレスチナ問題もここにきて大きく燃え上がってしまった。
言うまでもなく、イスラエルも日本のダイア業界にとって大きな存在だ。
もう5年近く足を運んでないが、かって行くたびに食事をご馳走してくれた友人たちはどうしているのか、非常に気になるところである。
イスラエル人というのはホントにいい人たちなんですよ、皆さん。
それがあんな風に激しく戦うというのは宗教のせいとしか言いようがない。
誠に残念なことだ。
『日本人とユダヤ人』というイザヤベンダサン(故山本七平氏)著の評論を読んだ後、奇しくもこの業界に入り多くのユダヤ人と接する事となった。
私の感ずるところをそのまま言えば、
ユダヤ人というのは世界にとって「極めて頭の良い優れた妾腹の子」、と例えることができるような気がする。
大した才能もなければ目立ちはしないが、優秀なるがゆえ良しにつけ悪しきにつけ注目を集めてしまう、しかし、正妻の子でないがため表舞台で堂々と喝采をあびることができない大店の息子、そんなふうに思う。
山本七平氏はユダヤ人を書く事により日本人論を展開したのだけれど、氏の表現を借りれば、日本人の柔軟さ、裏を返せば優柔不断さはなんでもすぐ白黒つけたがるユダヤ人とよく調和する。
ユダヤ人が物事の割り切り方を提示し、日本人のきわめてファジーな部分をスパッと斬ってくれるからである。
ユダヤ人の理論構築に関しての才能はもう言うまでもないし、日本人の物作りにおける職人芸は世界的に有名だ。
そして、両者は事務処理能力にかけて世界で1,2を争う才能を持っているから日本人とユダヤ人が組めば良い仕事が迅速に進展する確率は非常に高いのではないかと思う。
我々の場合(Sと私の場合)は両方ともあまり'らしくない'から多分ダメなんだ、とここで納得してしまった。



12月5日正午、
アムステルダム、スキポール空港。
大阪への帰国便を待っている。
RoyalWing−KLM,Northwestのプラチナカード保有者のみ使用できるWaitingLoungeである。年間に最低6回は日本とヨーロッパを往復しないとこのカードはもらえないのだ。めんどくさくて疲れるだけの飛行機の旅を年中やっているのだからこれくらいのメリットはあってよい。ゆったりとしたシートと無料の飲み物、でも大して快適ではない。もう世界中どこにいても同じだか、ケイタイの着信音と話し声がうるさい。

10年前はケイタイなんてなかったけど誰も不便は感じなかったし当時の方がビジネスは活発だった。
何でもあれば便利な事に違いないが、このケイタイだけは、下卑た表現をすれば大人のおもちゃと化している。
私のまわりのやつらも何を喋っているのかよくわからないけど、どうせ時間つぶしのつまらん会話をしているのだろう。
1時間やそこら我慢して本でもよんどけ、バカ。

わずか3泊、月、火のみの仕事であった。
確かにいい物は買った、しっかりと値段を払って。
利益がでるかどうかはわからない、神のみぞ知るであるが、売れる事に間違いはない。
2002年になればまたすぐにここに戻ってくることになっている。



来年はどんな年だろう。
生来超楽観的に育っている私は今年よりははるかに良い年になるように感じてならない。
恐らく読者の半分以上は、アホかいな、と思っていることだろう。
でも、みんなでよくなると思ったらホントによくなるかもしれないではないか。

ヨーロッパも新時代突入、新年からいよいよユーロ札の登場だ。


いまだ2千円札と出会いがない私であるがユーロ札だけは多くの日本人よりも早く手に入れられそうである。

ほな、また来年お会いしましょ。



◆ Back Number ◆
2005.07 Cut & Polished in Belgium
2005.04 ルフトハンザで出国
2005.02 オリーブの漬物
2004.11 ベルギーの初冬
2004.9 上手なブラフの使い方?
2004.8 2004アジアカップ
2004.4 ゴールデンウィーク に オランダ を想う・・・。
2003.11 Believe me!
2003.7 Vacances!
2003.5 日本とベルギーの規範
2003.3 ベルギー名物と言えば
2002.9 空港のネーミングについて
2002.5 ワールドカップ
2002.3 ひな祭り
2002.2 ユーロとトラブル
2001.12 プリンセス雑感
2001.11 ニューヨークの思い出
2001.9 不景気とは
2001.7 女子テニスプレーヤーというのは宝石だらけで戦っている・・・。
2000.4 ファンシーカットの好みは各国でかなり違うようだ・・・。
2000.2 天然の物が相手になるがゆえのつらさ、というのが常にある。
1999.12 私はダイアモンド業界ではゴルフの世界の尾崎みたいなものだ、といって自己紹介することにしている・・・