◆ ベルギー カラーダイヤモンド買い付けレポート 2002年4月

ベルギーはその昔、ベルガエと呼ばれた欧州大陸の辺地である。
ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の遠征により初めて歴史に登場することとなる。
カエサルが西ヨーロッパから中近東におよぶ「パクス・ロマーナ(スーパーパワー、ローマによる平和)」を築いた頃、この辺地に住む人々は動物の毛皮を身にまとっただけのいわゆる<蛮族>であったという。
EU本部、NATO本部がおかれ、西ヨーロッパの首都としてまさに小さなダイアモンドのように輝くこととなった2000年後のこの国の未来はさすがに天才カエサルをもってしても予想しえなかったにちがいない。
古代ローマの頃から英仏独蘭の列強に囲まれた近代まで、数々の悲哀を味わったこの国が初めてもつ栄えある時代である。

ところが、ベルギー人というのは派手なこと、目立つことはどうも苦手の
ようである。歴史の教訓と言えばそれまでだが、とにかく地味である、お行儀がよい。
パーティーの会場で例えるなら、大きな体で周りを威圧するドイツ人、自国語を気取って話すフランス人、紳士然としていながらいつも中心にいないと気のすまないイギリス人、酒が入るとやたらうるさいオランダ人、その間に静かにたたずむベルギー人、といった構図であろうか。

でも、そんな国柄だけに我々地球の反対側から来た人間はまことに居心地がよい。
もう100回近く来てるけど、いやな思い出はほとんどない。
最近、アムステルダムからアントワープ行きのフライトは80%くらい日本人の観光客で占められているけど、隠れた人気の秘密はそんなところにあるのかも知れない。

皮肉なことに、最近ダイアモンドの通りで同業の日本人を見ることが少なくなった。景気のいい頃は、ほんの20〜30m歩くだけで顔見知りの日本人バイヤーと会い、互いにあいさつを交わしたり、情報交換をしたりということが日常であったけれども、、、。相変わらず飛行機は満席に誓い状態だし、低迷しているのは我々の業界だけかと、またまた卑屈になってくる。

 アントワープの空港にタッチダウンしたのは4月11日の午後5時前だった。
ちょっとした春の嵐というか、気温は10度前後、満開の桜の大阪を後にしてきた私にとってはかなりつらい気候だ。こちらは花の季節には早すぎる。帰国したら桜は散ってしまっているのだろう、と思うとなんだかとても寂しくなる。
空港の出迎えはSではなく、見知らぬインド人の運転手だった。ウイークデイということで
Sは生意気にも仕事に忙しいらしい。
体調はよくない。眠ってしまいそうになるホテルまでの15分くらいの間、運転手との会話で気分を紛らわせる。ひどいインド訛りの英語だが、アジア人同志だからだろう、不思議と言っている意味はよく解る。有珠山の噴火について興奮してしゃべっていた。

ベルギーは火山とか地震とかにはほぼ無縁である。
われわれがしょっちゅう感じているような震度1とか2とかの地震でこちらのひとたちは大騒ぎになるらしい。もちろん、それさえも10年か15年に1度くらいあるかないからしいが、、、。

 買い付けはハードに、販売はソフトに、をモットーにしている私であるが、今回は久しぶりにストレスがたまる商品内容である。
いいものがあれば異常に高い。値頃感のある、そうそうこんな感じ、というものが本当に少なくなってきた。
以前はブラウン、イエロー系のものはかなり安かったはずなのに、そのレンジもおもしろい値段で手に入らない。
おそらく日本人バイヤー同志で値を釣り上げているのだろう。
ファンシーダイアというものが日本でもかなり浸透してきている、という現実を喜ばないといけないのだけれど、前々からファンシーダイアに力を入れている私としては、あまり人の真似をするなよ、と言いたくなる。

ファンシーカットについて、好みというのは各国でかなり違うようだ。
日本人の場合、ペアシェイプが一番人気と聞く。ハートももちろん人気があるが、形が形だけに熟年層には敬遠される。次いでエメラルドカットだろう。
オーバルやマ−キース、プリンセスというのはそれほどでもない。
ところが、アメリカ人はオーバルというのを大変好むらしい。その次がマ−キースやプリンセスと聞いている。なにか、De Beers の戦略が功を奏している、という気がするのは私だけではあるまい。私は個人的に所有するとしたら、マ−キースを選ぶだろう。縦と横の比率が2対1で、両端が鋭く尖っているのがいい。誰か白魚のような指のべっぴんさんがいたらプレゼントしたい。 マ−キースの指輪で引っ掻かれるのはあまり想像したくないけれども


ペアシェイプ

ハート

エメラルド

オーバル

マ−キース

プリンセス


プレゼントというと、ここベルギーのひとは何かというとすぐにチョコレートを買って渡すらしい。
ベルギーのチョコは日本でも有名で、特にゴディヴァあたりはデパートでかなり高値でも売れているようだ。
ただしあまり子供向きではないようで、たまに土産に買ってくると、ほとんど家内の洋酒の御供と成り果てている。
これがベルギーとなると一人あたり毎年8キロ近く消費するという。糖尿病だとか健康に不安のあるひとや幼児はまずたべないだろうから、普通の大人は毎月1キロは食べているのだろう。我々普通の日本人男性にはゾッとする数字だ。
事実、Sとランチを食べに行ったりすると必ず、濃いめのコーヒーを注文する。そんなもの事務所で飲めるではないかと言うと、いや、オレはデザートにチョコレートを食べたいがゆえにコーヒーを注文するのだ、という答えである。男ですらこれだから、女性の場合はどうなるのだ?と想像もできない。

 ベルギーはチョコだけではなく、食べるものはなかなか充実している。
シーズン中の牡蠣(カキ)やム−ル貝は好きでなかった人でも好きになってしまうということがよくあると聞く。私自身、ベルギーで牡蠣を食べるまでは食わず嫌いだった。それと、フライドポテトである。なんだ、とバカにすることなかれ。レストランで軽食を注文したときでも、パンかポテトかと、まるで日本でライスですか、パンですか、みたいな感じで聞いてくれる。完全にパリッとした歯ざわりのよさ、当然ながら食べ放題だ。ベルギーでフライドポテトを食べると、某ハンバーガー店で二度と注文できなくなること受け合いだ。

ついでにもうひとつ、ビールの話しをしないといけない。
100年前まで国内で3000を超えるビール醸造所があったそうだ。今でこそ120ほどになっているそうだが、種類の多さは間違いなく世界一だろう。日本の酒屋でなんか変なビールがあるという時、それは必ずベルギー産だ。ピーチビールとかストロベリービールとかだ。
私が一日の仕事が終わると必ずホテルのバーで一杯引っ掛けるのを楽しみにしているのだが、カウンターに座って見ていると、バーテンのビールを注ぐ手際の良さにはいつも感動してしまう。生ビールは、よそ見をして客と会話しながら泡の分量がおいしそうにピタッと決まる。これをまだ二十歳くらいの若いやつがやっているのだからおそれいる。
文化やなぁ、と独り言をつぶやいてしまいそうになる。
ヨーロッパの人は日本人のようにギンギンに冷えたビールはあまり飲まないみたいなのでグラスを冷やしてなんて、やらないのかと思っていたらさすがにある。これも注ぎ方がなんともおしゃれである。冷やしたグラスに冷やしたビール、これではまずおいしそうに泡はたたない。ところがヤングバーテン氏、最後のひと注ぎの瞬間ボトルを微妙にシェイク。 これでまたまたおいしそうに泡立ってしまうからなんともファンタスティックだ。まったく、仕事抜きでビール三昧したいですよ、、、ホントに、、、。

最後にビール三昧のベルギー人、とっておきの小咄をひとつ。

首都のブリュッセルにて、
観光客「NATO本部にEU本部、すごいですね。ここではどれくらいの人働いているのですか?」
ベルギー人「そうですね。ざっと3分の1です。」


◆ Back Number ◆
2005.07 Cut & Polished in Belgium
2005.04 ルフトハンザで出国
2005.02 オリーブの漬物
2004.11 ベルギーの初冬
2004.9 上手なブラフの使い方?
2004.8 2004アジアカップ
2004.4 ゴールデンウィーク に オランダ を想う・・・。
2003.11 Believe me!
2003.7 Vacances!
2003.5 日本とベルギーの規範
2003.3 ベルギー名物と言えば
2002.9 空港のネーミングについて
2002.5 ワールドカップ
2002.3 ひな祭り
2002.2 ユーロとトラブル
2001.12 プリンセス雑感
2001.11 ニューヨークの思い出
2001.9 不景気とは
2001.7 女子テニスプレーヤーというのは宝石だらけで戦っている・・・。
2000.4 ファンシーカットの好みは各国でかなり違うようだ・・・。
2000.2 天然の物が相手になるがゆえのつらさ、というのが常にある。
1999.12 私はダイアモンド業界ではゴルフの世界の尾崎みたいなものだ、といって自己紹介することにしている・・・