秋の夜長、いかがお過ごしでしょうか。 ここ数年の日本は亜熱帯の気候で1年のうち半分くらいは夏ですが、それでも夏が終わるとすぐに冬となる欧州を思うと、日本の秋は比較的長く感じます。温暖化の影響もありましょうが、12月の初旬くらいまでは寒いのどうのと大袈裟に騒ぐことなく、ほぼ2ヶ月を同じようなペースで過ごしているような気がしますね。 このような良い季節に何を見て何を感じるか? アカデミックなウッキーはやはり読書の秋。
枕草子・清少納言と言いますと“いとをかし”の連発で有名で、所謂‘感性ねえさん’の価値観ならぬ『価値感』の世界、なんですけども、源氏物語が理想空想の王朝絵巻ならば、こちらは超リアル・実際の宮廷生活描写。誠に活き活きと描かれる京(みやこ)と御所の模様は単に風情のみならず、滑稽な男女の様(さま)まで見事に観察されているが故に1,000年の時を超えて人々に愛読されて来たのでありましょう。そのような枕草子の中から、これまであまり表に出てこなかった『艶』な部分に今回はスポットライトを当ててみました。ツヤあるカラーダイヤとともにご鑑賞くださいませ。 清少納言は、中宮定子(一条天皇の皇后)から篤く信任された女官だったようですから、それはもう詰まらぬ殿上人(宮殿の御用を仕る官僚)では釣り合いがとれなかったに違いないでしょうけども、そこは気位高くともやはり当時の女、人並みに◇□△の様子がしっかりと記されております。
清少納言というのは重要なお局さん。ですから簡単には御所の外には出られないはずで、誰か知らんけども相方の男が忍んでくる場所はいずれにしても内裏の界隈、ようやりまんな。“それ専用”の小部屋かなんかを女官たちが内々で定めて勝手に管理して『今日は私、貴女は明日』とローテーションしてたんかね。 |
『第二十六段 心ときめきするもの』より 「・・・頭洗ひ、化粧じて、香ばしうしみたる衣など着たる。ことに見る人なき所にても、心うちは、なほいとをかし。待つ人などのある夜、雨の音、風の吹きゆるがすも、ふと驚かる。」 ― 男との逢瀬は心ときめかずして迎えるのは困難なものであろう。すっきりと入浴のあとは念入りに化粧、香を焚き染めた着物を着て静かに座する時など、別段に見る人のいない折りでも弾んだ心になるのに、待つ人がある時は格別だ。そのような夜は、雨風の音にもハッと胸が騒いでしまうのをこらえられない。 清少納言は15歳で最初の結婚をし、16歳で長男を産んでおりますが、その前後のこと(を思い出しての描写)かもしれませんね。人間の寿命が遙かに短かった当時ですから、10歳プラスくらいが現代に相当するのではないかと思われます。 |
さ〜て、風紀大いに乱れる御所の中の極めつけ、 『第三十三段 七月ばかり、いみじう暑ければ・・・』より 「・・・奥の後めたからむよ。人は出でにけるなるべし、薄色の、裏いと濃くて、表はすこしかへりたるならずは、濃き綾のつややかなるが、いとなえぬを、頭ごめにひき着てぞ寝たる。香染めのひとへ、もしは黄生絹のひとへ、紅のひとへ袴の腰のいと長やかに衣の下より引かれたるも、まだ解けながらめり。」 ― 宮殿奥を気にしながらも、忍んで来ていた男が身支度して帰った直後なのであろうか、女は、濃い裏地で表は少し色あせた薄紫の着物と、濃い紅の綾織模様が艶々と美しい糊のきいた着物を頭から被って寝ている。渋茶色のひとえと黄色の絹のひとえを着てはいるが、紅の袴の紐が解けたままで長々と延びている。 七月の“いみじう”暑い折り、宮中の小部屋に男を誘い込んで一夜を過ごして帰した後の女官に違いないですね、このようなことが普通だったとは羨ましい限りですけども、こんなに乱れに乱れた宮中であっても良かったとは・・・いやいや、良いはずはないですな、何という現実で! おっと、これはまた相手を変えて第2ラウンドか!? そしてまた、 |
さて、後朝(きぬぎぬ)というような言葉が生まれるほどに“翌朝の男女”は昔からある種『神聖神域侵すべからず』みたいな雰囲気があったようですけども、それは多分に女性の感性が強く働いているように思いますね、‘感じ方の違い’というやつではないかと。直線的で強弱が激しい男の感じ方と、徐々に高まり余韻も深い(と聞く)女の感じ方と。 与謝野晶子は『みだれ髪』の中で後朝を下記のような歌で表現しておりますが、 今はゆかむ さらばと云ひし 夜の神の 早朝にクールに去ってゆく男に縋り付くでもないですが、別れ難い思いで涙流す姿ですね、ちょっと見ちゃおれんと、重苦しい雰囲気が漂っております。 これに対して“清少納言の後朝”は、誠に薄あじアッサリ調、昆布ダシに薄口しょうゆを少々くらいの正に京風ですな、それでいて『翌朝に男はこのように振舞うべき』という理想の後朝まで書いているのですから、クセありがお好きだった当時の‘変こ趣味’のお偉いさん方に彼女は絶大なる人気だったようです。参議(主要閣僚あるいは宰相)であった藤原斉信が清少納言に、『なあ、なあ、もうええやろ、もうええかげんに男と女の関係になろうや』と、シツコク迫ったのは有名なお話。これに対して彼女は、『そんな仲になったら、帝や中宮の御前で貴方様のことを褒められへんようになりますさかい堪忍しとおくれやす』とスルリと身をかわしたのは見事としか言いようがないですね。そんな彼女が書いた後朝の理想と現実。 『第六十段 暁に・・』より ある程度は乱れた格好で帰って欲しいとは、まあ何とも難しい注文ですね。ウッキーは男なのでイマイチ理解出来ませんけども、恐らく、『せっかく私がまだ余韻の中にいるのに、後朝の雰囲気を全て消したような出で立ちの身支度しなくても・・・』ということではないかと。アカラサマなのは嫌だけども、女の所から帰ったみたいな風情もちょっと残してくださいね、少しくらいは噂話になるように、と言いたいのでしょうね、女心は難しい! そして、理想の後朝・・・・ いやはや大変ですな、男にとって清少納言の理想通りに振舞うというのは。女に『あら、大変』と言われて『ホッと溜息』というのが素晴らしい駆け引きです。そこまで計算づくの一挙手一投足を要求するのかという“ハイレベル後朝”。早朝にシンドそうに起き上がるのは誰でもやれるだろうけども、その後にスウィートに昨夜の続きをやりながら身支度しているなんて、そ、そんな・・・・手品師やあるまいしね。しかし、何割かの現代女性はこの理想の後朝に共鳴するであろうことは容易に想像できるのであって、こんなことを1,000年も前から書いていたという、当時の文化度の高さ、まったく大した物でございますね。 宝石屋がひとつ付け加えさせていただくならば、 |
ところが、現実の後朝・・・ これは恐らくもう1,000年以上ずっと同じなのでありましょう、 『・・・思いで所ありて、いときはやかに起きて、ひろめきたちて、指貫の腰こそこそとかはは結ひ、直衣、狩衣も、袖かいまくりて、よろづさし入れ、帯いとしたたかに結ひ果てて、つい居て、烏帽子の緒、きと強げに結ひ入れて、かいすふる音して、扇、畳紙など、昨夜枕上に置きしかど、おのづから引かれ散りにけるを求むるに、暗ければ、いかでか見えむ、「いづら、いづら」と叩きわたし、見いでて、扇ふたふたと使ひし、懐紙さし入れて、「まかりなむ」とばかりこそ言うらめ』 ― 何か急に思い出したというふうに、本当にサッパリとした顔で起き上がり、パタパタと身支度、指貫や直衣、狩衣も几帳面に着て帯を固く結んで、その場に座り直して烏帽子をキッチリと被って、扇や畳紙(詩歌の草稿を書く用紙)など昨夜には枕許に置いたのが夜の“くんずほずれず”で部屋のあちらこちらに散ってしまって探すのだけれどもまだ暗いから見つからない。『どこや、どこや』と、そこいら中を手で叩きまわってやっと探しあてて、やれひと安心と扇をパタパタ。最後に懐紙をしまい込んで『ほな帰るわ、またな』と出てゆくのが大ていの男である。 昨夜は部屋の中が散らかってどうしようもないほど激しいバトルだったのに、朝になったら用は済んだと事務的な帰り支度、そりゃアカンわ、女は興醒めになりますな。 清少納言女史はこのように大抵の男を風情不足と言い切っておりますけども、男としてはもちろん『そんなことあらしまへんでぇ』と文句の一つも言いたくなるわけで、女がIntense Pinkならば男としてもそういう風に行動しますと言いたいですよね。 ホンマ次のような女なら、男も“お洒落な後朝”を意識しまっせ。 絵になりますなあ、有明けの月に照らされるベッピンさん、 |
カラーダイヤの魅力は何なのかと考える時、ゆきあたるのが古典の世界。 古典とカラーダイヤに共通するのが想像と自分勝手な思いこみ。 カラーダイヤには古典にあるような“極めて透明感の高い豊かな色彩”が広がっていると感じますし、鑑賞する時間や場所によって、本来ベースになっているカラーとはまた若干違った色をイメージしたり感じたりできる面があります。 かと言って、まるで現実を実際を無視している訳ではなく、実際の様子から広がってゆく感性の高まりですね、古典とカラーダイヤの鑑賞はそのような感覚を持てるというのが嬉しいところでありましょう。 如何でございましたかUKIカラーで綴った枕草子、 |
◆ Back Number ◆ | |
第20話 | UKIカラーで綴った枕草子 |
第19話 | 古今和歌集ダイヤモンド語訳 |
第18話 | 2006W杯 × Fancy Color |
第17話 | That's Baseball |
第16話 | トリノの余韻 |
第15話 | “The Aurora butterfly of Pease” |
第14話 | Fancy June ... |
第13話 | ウッキー夜話 |
第12話 | 『春のダイヤ人気番付』 |
第11話 | 2003年 南船場の秋 |
第10話 | 「白シャツ」と「白ダイヤ」にご注意。 |
第9話 | 初詣 |
第8話 | 秋 |
第7話 | 日本の色 |
第6話 | オリンピック随想 |
第5話 | お正月に想う |
第4話 | ブルーダイヤ、高価とは聞いておられるでしょうがどれほど高価なのか・・・ |
第3話 | 同じ赤でもピンクダイアとルビーではかなり色に違いがあります・・・ |
第2話 | 新しい「誕生ダイアモンド」なるものを設定・・・!! |
第1話 | 『fantasy』で『fantastic』な『fancy world』へ御案内。 |