◇◆  ファンシー ストーリー第15話  ◆◇


この冬はとんでもない寒波で、雪を楽しむどころではないようですね。
早春の話題が待ち遠しいところです。

“梅一輪、一輪ほどの暖かさ”
やはり春の話題は梅の香りからなのでしょうか。

時代ものばかり読んでいるウッキーは、時に頭の中でタイムスリップ。江戸時代の恋に思いを馳せたりしておりますが、こんな出会いがあればなあってね、ふと想像してしまいます。
― 佐伯泰英の剣豪小説・密命シリーズG『悲恋』より
・・・・・
辞去の挨拶をしかけた駿次郎が、
「みわどの、鏡開きの11日にそれがし、湯島天神に参る。梅見物に参られぬか」
と誘った。だが、すぐに、
「いや、これは無作法なことを申したな。忘れてくれ」
と慌てて取り消した。
「軽部様、刻限はお昼にございますか」
「それがしが参るのは八つ(午後2時)時分だが・・・」
「参ります」
「おおっ、参られるか」
駿次郎が嬉しそうに笑い、
「では、そのときにな」
と笑みを返すとみわに背を向けた。
・・・・・

江戸時代はちょっと・・という方もこのところの昭和懐古(回顧)ブームというのでしょうか、映画“三丁目の夕日”に代表される昭和30年代を懐かしんだり興味を持ったりではないかと思います。
終戦から10余年が過ぎ、日本に最も活力があった時代。そして何よりも‘持たざるがゆえの幸せ’とでも言うのでしょうか、隣人と支え合い助け合って生きて行くという喜びですね。21世紀に住む我々が失ってしまった心の中の肝心な部分、そして原風景。
そんなようなものを求めての昭和懐古かと思います。

下の写真をご覧あれ。



これは?
どこにでもあったような田舎の風景なのですが、最近はなかなか見られなくなりました。ウッキーの三重の実家あたりも昔はこんな感じでございましたが、実はヒマラヤ山脈、ネパールの東に位置するブータンの農村風景。ホンマ懐かしさがこみ上げてくるような画像でございますね。

“GDPよりもGNH”
GNHとは‘国民総幸福量’とのこと。
ブータンではこのGNHを数値化するための研究が日常行われているとか。
『ペットボトルの水が売れればGDPは上がるが、川の水が飲める国になればGNHが上がる』
全くおっしゃる通りで。
日本の田舎でもかなり川の上流、ほとんど人が住んで居ないようなところまで行かないと川の水は飲めなくなってしまいましたな。畑の果樹や野菜は農薬まみれでね、宮崎駿監督の“トトロ”で、さつきちゃんメイちゃん姉妹がキュウリを丸齧りするシーンが印象的でしたけども、先端の苦い部分をペッと口から吐き出してね、ウッキーも小学生の時には畑に入ってはいろいろと取って齧って祖母に叱られたものでございました。

残念ながらもうそんなような時代に戻ることは叶いそうになく、今さら日本人にGNHを説いたところで『概念としては非常に素晴らしいものやけどね・・・』となるだけで結局『せやから何やねん』となるだけ。
しかし、
決して懐古だけではなく、原風景に感応する能力を持っていることは実に重要なことではないかと思います。

カラーダイヤは‘感応の世界’、
鑑定屋のグレーディング用紙だけで全て解ったような気になっている人には原風景も見えやしません。
  (おおっ、やっとダイヤの話が出てきた!)

・ ・ ・

ジュエリーカレンダーを申し上げますと、
1月25日は年中行事である“国際宝飾展”の開幕。
言うまでもなく国内最大のジュエリー展示会ですな。
その冒頭を飾るのは‘日本ジュリーベストドレッサー賞’の表彰式ですが、その受賞者が既に昨年末に発表されておりますね。

10代 BoA
20代 小雪
30代 深津 絵里
40代 大地 真央
50台 小池 百合子
男性  清原 和博

2004年度よりは多少マシかもしれんけどね、毎年のことながら日本ジュエリー協会幹部のセンスのなさは救い難いですな。一体何を基準にしての選考なのか摩訶不思議!!
いえいえハッキリしていると言えばしております。
“彼ら彼女たちが日ごろ身に付けているジュエリーが実にセンス良くて似合っていて美しい”
というのは全く二の次、三の次、でございますね。
要は、その年に目立ったかどうかということと、大手宝石店にたくさんゼニを落としたかどうか。
今年あたりは、小川直也が鼻にピアス付けるとか、ごついペンダントぶら下げて白いマットに登場すれば次回の受賞は間違いないところでしょう。
BoAなんかはK社あたりでやった男性社員の人気投票の結果やろうね。
30代は相当難航したようですな、かなりの人材不足で、しょうがなく懐古調、なつかしのメロディーの深津。彼女は二十歳前の頃、衝撃的にヒットした‘ニューブライダル・リング枠’のモデルでね。従来のブライダル・リングと言えば大きな6本爪か、ティファニータイプの細い爪だったのですけども、彼女がモデルとして付けた指輪は斬新な2本爪タイプ。大ヒットのあと業界では通称“深津タイプ”“深津枠”などと呼ばれております。顔は知らぬが名前は、という業界人も多いはず。最近の彼女はホクロが多いね、授賞式会場の東京ビッグサイトで『カーボン深津』なんて呼ばれないようにしっかりとレーザードリルして来てください。

半年くらい前どこかの雑誌に‘巨人ファン100人に聞きました’とかいうアンケートを元にした記事がありましたけども、清原クンは“一番好きな選手”と“嫌いな選手”の両方でトップでございましたね。毒にも薬にもならん奴よりはマシかもしれませんが、あの醜悪そのもののピアス、移籍した今年も着け続けるのでしょうか? 本拠地の神戸に相応しいお洒落を望んでいるのはウッキーだけではありますまい。
清原クンの新たな門出に対し、アイビールックで有名な石津謙介氏の言葉をプレゼントしておきましょう。
“形を着るのではなく、男としての誇りを着ろ。お洒落な人よりも、しゃれた男になれ。”


カラーダイヤ愛好家の皆さんであれば一度は聞いたことがあるに違いない世界屈指の天然カラーダイヤコレクション“The Aurora butterfly of Peace”。


The Aurora butterfly of Peace


本日はその恐るべきコレクションの保有者であるAlan Bronstein氏を当店にお招きしました。
『まあなんとせせこましいoffice、うちの犬小屋ほどもない』
などとほざいておられますが、
ほっといてくれ! 
まあそれはいいとしまして、早々にいろいろとお話を聞いてまいりたいと・・・・
ホンマか?
誠に失礼致しました。
Bronstein氏は実に多忙、大阪・南船場に来ていただくことは叶わず、代理の者にインタビューに行ってもらったのですけども(これも何かウソっぽいですが)、その抜粋をお届けしましょう。

―― the Aurora butterflyほど有名なカラーダイヤコレクションはそうそうないと思われますが、その蝶の形を完成させるまでどれだけの年月を要したののですか?

「約12年ですね。」

―― きっかけは?

「ある日、60個のバラエティーに富んだカラーダイヤを買ったのですが、突然に何を思ったのかそれらをテーブルの上にぶちまけてしまったのです。そしてその一瞬後にはそれらと遊ぶことを始めておりました。」
「しばらくすると、同じような色や形のものが多いことに気が付き、蝶の羽根のような左右対称の形に並べることを思い付いたのです。」

―― その後それはどのように進展したのでしょう?

「60個ですからね、そんな大きな蝶にはなりません。私は宝石屋として顧客を持っておりましたから、販売に必要になるまでと思ってその形をそのまま小さなケースに入れて保存することにしたのです。」

―― しかし売るのが惜しくなった?

「いやいやホンマその通りでね、最初のうちはそうでもなかったのですけども、時間が立つにつれてね。」
「そしてそれから2,3年かけて蝶を大きくしていったのですが、ある地点に到達した時、それは凄く美しいものに見えてね、それならトコトン行ってみようと、世界的にも珍しい芸術を作ってみようというアイデアにとり付かれたのです。」

―― 重量と個数は最終的にいかほどに?

「合計で167カラット、240個です。」

―― 売値は?

「アホな。値段はあらしまへんでえ。」

―― またまたそんな、急に浪速の‘あきんど’になったらあきまへん。

「ホンマですがな。このコレクションは人類全体の遺産でっせ。大事に後世に残さんとアカン。」

―― なるほど、見かけによらず志の大きな方でございます。さて、Brostein氏はダイヤモンドのディーラーとしても非常に有名な方なのですが、ビジネスとしてのカラーダイヤについて少しお聞きします。

「なんなりと。」

―― カラーダイヤは未だ多くの消費者にとって馴染みのないものですが、その魅力を一般消費者の皆さんに対してどう表現しますか?

「カラーダイヤは、美の永遠の凍結です。私にとってカラーダイヤは、花の中の陽光であり、根源的な愛であり、最も純粋な光の本質的な部分ですね。」

―― おおっ、なんという解り難さ、難解表現の乱発、いや失礼、なんと素晴らしく豊かなボキャでございましょう、これらの言葉そのまま当店商品のタイトルに使わせていただきたく思います。

「アカンでえ、もう登録商標にしてあるからな」

―― そんなことできるんですか。まあよろしい(勝手に使うから)、一体何をおっしゃりたいので?

「一言で言うならば、“Heart Beat Faster”・・・かな」

―― 競艇みたいやねぇ・・・

「アホなこと言いなはんな、アロハシャツ着て歌わなアカンのかいな、カラーダイヤのためやったら何でもするけどもな、ちょっと歌は勘弁や。ホンマこんな感性のない奴が相手とはな、疲れるけども、とにかく、
カラーダイヤの魅力を具体的に表現する事は難しいし、ハートで感じてもらうしかないということですな。素晴らしいカラーダイヤに巡り会った瞬間、心臓はバコンバコンと激しく速く打ち始め、目は大きく見開いてしまい、そしてその直後にスマイル。これですがな。」

―― レベルの高いカラーダイヤは美しい女性のようなものですね。

「まさしく。ある意味、美しいカラーダイヤを手にした瞬間は性的興奮に似たような感情の高ぶりを感じ、他のもの全てを忘れさせてくれ没頭できるような気になり、瞬間カラフルな光が反転し続けるような無我の境地に陥ることもある、と言えまんな。」

―― あなたをそこまで駆り立てるカラーダイヤとの出会いは?

「私が最初に見たカラーダイヤはオレンジ・イエローのもので、それは例えると、午後の遅い時間の太陽のようやったね。遥かかなたに過ぎ去った思い出でしかないけども、なんと言うか、一陣の風によって運ばれてきたかのようなその色と明るさは今でも私の心の目の中に存在しているし、私の頭の中にイメージが焼き付いておる。」
「そのspark以来、私は出来る限りのものを見て学びたいと思ったわけです。」

―― 最初のものが彩度の高いピンクやブルーではなく、オレンジ・イエローというのは興味あるところですね。

「そのときの精神状態とシンクロしたに違いない、一期一会やからね。」

―― そうですね、そのような出会いを消費者の皆さんに提供できるのかどうか、それが業界の大きな課題だと思われますが、産業として、カラーダイヤの消費を増やすに何が出来るでしょう?

「カラーダイヤのビジネスは、それを扱うファクトリー、ディーラーそして小売店にとっても高度に主観的なものやね。しかし一方、鑑定屋と我々の見解が消費者にカラーダイヤの存在と美しさを知らしめるのと同様に、彼らに対して商品の価値判断に大きな影響を与えますな。カラーグレードが決して商品の希少性や美しさを表現しているものではないけれども。」
「かつて、鑑定屋が存在する以前の時代、カラーダイヤのコレクターやディーラーは、自然に存在する目に見えるもの、例えば空の青とかバラのピンクとかを使うことしかカラーダイヤの色を表現できなかったのであるけれども、その方法は今でも結構有効的やね。」

―― いやホンマおっしゃる通りで。私の知っているカラーダイヤ屋なんぞはそれ一辺倒ですがな、Light Blueは“スカイブルー”だの“スカイハイ”だので、Intense Purplish Pinkは“紫陽花”、もうワンパターンの極み、全くどうしようもないですな。

「それってアンタのことちゃうんかいな。まあそれでも単に英単語を並べたカラーグレーディングよりは遥かにマシ、そのうちまた何かええ言葉でも浮かびますやろ。」

―― しかしね、ローズ・ピンク言いますけども、今日びそんな色のピンクダイヤおまへんでぇ。

「そうかもしれんねえ、それでワシらは大変なんじゃ。」

―― どういうところに気を使っておられるのですか?

「なんとか消費者をカラーダイヤに向かせるために、カラーダイヤの色を具体的に何かに置き換えるという作業を消費者の皆さんにも参加してもらわんとアカンちゅうこっちゃな。」

―― 参加?

「そう、例えばサーモン・ピンクという色あいも結構綺麗なものや思うけども、サーモン・ピンクか、なんや鮭か、というようなことになってな、とてもやないけどもそれからそのピンクダイヤ買おうかという気にならんわな。」

―― なるほどね、大阪人なら鮭のあとに熊と続いて、そして島木譲二と連想してまいますわな、それで、『それやったら花月劇場へでも行った方がええかな』となってしまいますわ、全く宝石どころやおまへん。

「というところで、消費者の皆さんがより良いイメージのもので実存する色をカラーダイヤに想像してもらえるようなアプローチが必要ということや。」

―― そう言われましてもねえ、なかなかピッタリとくるものがそうたくさんあるようにも思えません。

「実際の色プラス感性のイメージや。日の出直前の空を見て“Fancy Light Purple Pinkやなとか、なんでもあるやろが。」

―― ちょっとそれ無理があるような・・・

「そんなことないでえ、キミみたいに朝寝坊ばっかりでは分からんやろうが、早朝の晴れ上がった空は青系と赤系が微妙にミックスしてそれはホンマbeautiful、淡いパープル系ピンクそのものとワシの心の目が言うておる。」

―― 言葉のmagicを使えと?

「そういうことかもしれんね、決してまやかしとかではない、心で見るmagicちゅうことやね。」

―― 引田某とかミスター〇△ではあきまへんのか?

「そこまでやったらTreatの世界になってしまう、やり過ぎはアカン。重要なことは、消費者の皆さんが感覚的に解っている、多少なりとも言葉のmagicを感じることが実生活にとっても潤いであり明日への希望や勇気となるということを、カラーダイヤを目の前にして再体現してくれるかどうか。」

―― それが出来なければ?

「消費者に天然のカラーダイヤを買うという以外の見解やオプションを与えることになる。」
 
―― するってえとなにかい、消費者の皆さんは‘ふぇあ’な‘とりーと’を期待していなさるので?

「なんで急に江戸弁になるねん。」

―― いやいやスンマヘン、時代物の読み過ぎで。それにもちろん着色の意味のトリートではございませんので。

「確かに、カラーダイヤというのは時にルースで見ているときの方が綺麗であり、枠に留めてしまって色があまり見えなくなってしまったというのもよくあるケース。色が派手に出ているtreatのカラーダイヤの方が製品向けかもしれんね。しかし、treatを買った人があとで満足するかどうか。なんぼ色がしっかり出ていると言っても所詮は人工着色。満足度指数が高いのは公明正大な言葉のマジックを心で解した天然100%のカラーダイヤ保有者であるに違いおまへん。」
「そして、年末年始バーゲンでダイヤを買ったり、treatを買ったりというのはカラーダイヤを愛する者、理解する者の行動ではないとツヨ〜く思いますな。」

―― まさに同感、本日は真に有難うございました。


2006年のジュエリー・シーン、どのような展開を見せてくれるのでしょう。ウッキーも興味津々。
流行に囚われず、華美に流されず、自分のスタイルを通すというのは難しいことかもしれませんね。
しかし、カラーダイヤの良さはあくまでもスッキリとした透明感と品格。

源氏物語須磨

その昔、紫式部は都の近くの琵琶湖に遊び、その風情を愛でながら遠く須磨の海を想像し物語のプロットを練ったとか。
我々の感性はそれには遙か及びませんけども、そんなことを少し考えてみたくなる新春です。




◆ Back Number ◆
第20話 UKIカラーで綴った枕草子
第19話 古今和歌集ダイヤモンド語訳
第18話 2006W杯 × Fancy Color
第17話 That's Baseball
第16話 トリノの余韻
第15話 “The Aurora butterfly of Pease”
第14話 Fancy June ...
第13話 ウッキー夜話
第12話 『春のダイヤ人気番付』
第11話 2003年 南船場の秋
第10話 「白シャツ」と「白ダイヤ」にご注意。
第9話 初詣
第8話
第7話 日本の色
第6話 オリンピック随想
第5話 お正月に想う
第4話 ブルーダイヤ、高価とは聞いておられるでしょうがどれほど高価なのか・・・
第3話 同じ赤でもピンクダイアとルビーではかなり色に違いがあります・・・
第2話 新しい「誕生ダイアモンド」なるものを設定・・・!!
第1話 『fantasy』で『fantastic』な『fancy world』へ御案内。