◇◆  ファンシー ストーリー第8話  ◆◇


秋、ですね。
日本人は四季の中で秋を好む人が多いと聞いております。
春は桜の開花とともに華やかに始まるものの、あっという間に汗ばむ季節になってしまいます。でも、秋は、今年のように順調に来てくれますと、結構楽しむ時間が長い、
そのせいかもしれませんね。
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私の場合は田舎育ちのせいで、秋と言うとどうもあの刈り取りの終った田んぼの風景を思い出し、寂しいイメージしか浮かんでこないのであまり好きじゃないのです。
皆さんは如何でしょう?

秋にはいろいろとキャッチフレーズが付きますね、スポーツの秋、食欲の秋、・・・
私はもちろん"読書"の秋でございます。
れいの『ハリボテと漬物石』のシリーズには全く無関心ではありますが、最新刊はなんでしたか?『ハリボテと炎の男仙一』??なんや語呂がイマイチやね、もう野球もオフ、来春までおあずけということに・・・。
10年以上前の北方謙三の小説に『秋ホテル』というのがありました。もちろんバリバリの北方節ハードボイルドですが、実に細やかなタッチで秋の心情が描かれておりました。
数年前の浅田次郎の小説『プリズンホテル秋』、いつもの浅田調に加えて鮮やかな秋の色調、堪能しましたね。それにしても、出張でなくて普通の旅行がしたいせいなのでしょう、やたらホテルばかり出てきます。
そう言えば、『秋のホテル』というアニータ・ブルックナーの全くつまらん小説もありましたな。ちなみにこのお話、アホな日本人の男から十数億円ひったくって南米にお洒落なホテルを建てたというストーリーではございません。
いろんな本を乱読してなにがなんだか訳がわからなくなるくらい読んでおりますが、今は時代物が好きで常に現在進行形の一つに入っております。
忍者が出てきたりとか、戦国時代モノではなく、平穏に物語が進行するような江戸の人情モノです。例えば、平岩弓枝の『かわせみ』シリーズのようなね。人情ばかりではなく、常に季節感に溢れているのがたまらない訳です。彼女のような優れた作家の文章を読んでおりますと、実際に自分の目で見たり画像で見たりというよりも文字のほうがVividであるように感じますね。主人公の神林東吾がおるいさんと湯豆腐なんぞでしっとりと・・とかに出くわしますと、もう我慢できません。私も早速、家内に『おい、今日の夕飯は湯豆腐や』と命じる次第です、アホやねえ。でもこんな楽しみ方も読書の一つであるというのは間違いのないところ、と同意いただけると思います。

イメージ そんなわけで(どんなわけや?)今日はウッキーによる南船場の人情モノ(?!)をお届けします。秋の夜長、こんなものでも読んで暇つぶししてください、えっ、なに、アンタみたいに暇じゃないって、そんな方もぜひ。しょうもないテレビのバラエティーショーよりも余程おもろいと始める前から自画自賛なのであ〜る。

第1回は(2回目があるのかどうかは定かではないけども)鑑定屋について。
一般的に業界内では"鑑定機関"と呼ばれている鑑定屋、私も便宜上仕方ないので゛公式の場゛では右ならえしておりますが、常日頃は上記のように"鑑定屋"と言っております。つまらん事にこだわるな、と思われるかもしれませんがこれはけっこう重要なポイント。何故かと申しますと、第1に彼らは(恐らく全国に数百社あると思われますが)利潤を追求するところの100%民間企業でありまして、形態は我々と同じ株式会社、有限会社、個人商店等などであります。第2に経済産業省の指導や許認可とは全く関係のないフリーマーケットであることです。こんなやつらがご大層に"機関"と呼ばれるなら弊社も"輸入機関"と呼ばれてしかるべきですし、ローソンやセブンイレブンは"便利機関"、マクドナルドやロッテリアは"外食機関"??


皆さんよくご存知のように、鑑定屋にはいろいろございますね、はっきりと申しましてその信頼度によりA,Bに分けられております。もっと細かくA,B,Cと分類される事もありますな。Aとは何か、信頼のおけるAランクの鑑定屋という意味で略して"A鑑"、ABふたつに分けていう場合はその他大勢が"B鑑"なんですけども、ABCで分類される場合は結構まともなんだけどもマイナーなところをB,その他を"C鑑"としております。残念ながらこれらの呼称は業界内の通称です、そろそろ2003年版『現代用語の基礎知識』や『イミダス』が発売される時期ではございますが、それらにこの用語が載っているというのは寡聞にして存じ上げません。
当然みなさんはどこがA鑑なのかとても気になるところでございますね。
私の独断と偏見によらず、客観的には(まあいろいろとそれぞれ問題はあるにしろ)やはり次の3社かなと・・・。

AGT(GIA Japan)
中央宝石研究所
全国宝石学協会

どうしてか、一つには全国的に有名である。二つ目には海外にも支店を持っている、もしくはユダヤ人にも認知されている、ということです。

さて、気になるA鑑屋それぞれの特徴を述べてみましょう。

まずは、AGT、俗に「お役所」と二つ名をいただくくらい融通に欠ける面が多分にありますな。きょうび市役所でも、もう少しフレキシブルなんじゃないかと時々思ったりします。ここよりも石頭な民間企業は多分UFJ銀行くらいのものでしょうね(竹中はんに頼んで国有化してもらわなアカン、そしたらちょっとはマシになるやろね)。別名GIA Japanということでその権威を嵩にかけたような言い方が業者の反感を招き、本来の鑑定業務の売上は激減と聞いております。AGTが何で収益を上げているのか、それはもう教育と出版部門が圧倒的なのです。所謂、宝石鑑定士(GIA G.G.)の資格を得るのはアメリカ本部へと留学するのが手っ取り早いですが、滞在費やら言葉の問題やらで渡米できる人は限られておりますね。そんな時に東京あるいは大阪のAGTで資格を取るわけなんです。毎日通える環境にない人のためには通信教育も充実しているとか。私はGG免許を持っておりませんし、それにトライした事もないから詳しくは知らないのですが、AGTでGGを取得するには最低半年くらいの時間と平均120万円ほどのお金を要するとか、我々業者に嫌われても生きていけるはずやね。
私がパシリをやっておりました約20年前、AGTの大阪支店は南船場にはありませんでした。地下鉄の駅名で言うと、我々の活動エリアから遠く離れた西中島南方というところにありました。往復に1時間もかかるのでパシリの私はよく行かされましたね。そのあたりには関東系の暴力団、いや失礼、関東系企業の大阪支所が多いのですが、それは隣の駅が新大阪で、東京などからの行き来に便利がよいというつまらない理由です。
昭和から平成に変わる頃、AGTもようやく重い腰を上げて南船場に事務所を移しましたが、決して尻軽になって我々に好意的になったわけではございませんね、クレームを付ければ付けるほど(我々のクレームは大抵グレードが厳しすぎる、というものなんですが)何か余計に依怙地になってゆく、そんな年よりじみた感触を受ける事がますます多くなっていっているような気もします。ここで思い出すのが、かつて仕えていた親分の言葉、
『例えば、EFカラーのVSクラスのダイヤがあるとする。それをキツめ、FのVS2と言うのは素人に近い者でも、さして経験がなくても可能だ。しかし、はっきりとEのVS1と断言できる者は少ないし、それができれば優れたグレーダーなのだ・・・』、
どうですか、意味するところを汲み取っていただけましたでしょうか、いや、ホンマ、まったくもう、最近のAGTのソーティングはこの「FのVS2」的なものばかりです。素人ソーターが増えてきました。長年GIAの冠かぶっていたせいで裸の王様になってしまったんでしょうな、技術の低下が危ぶまれます。


かつてラーメン屋と呼ばれバカにされていた中央宝石研究所(何故ラーメン屋なのかって?中央研=>中央軒というわけです)、最近は回転寿司屋くらいにはなっているのではないかと・・・。
そうなんですね、ここのアイデアは素晴らしいのです。カットの総合評価を始めたのはまぎれもなく中央軒、これがなければいまだにガードルの厚い場面の小さいプロポーションの悪いダイヤをベルギーモノの美しいダイヤ並みの値段で買わされる消費者もいるに違いないですね。このアイデアから派生した"Excellent"、"トリプルE"、"ハートアンドキューピット"etc.、これら全てかつてのラーメン屋さん、現在の回転すし屋のアイデアです。いやいやまだまだありますね、この回転すし屋はホント頭が柔軟。
結納用にど派手な鑑定書+カバーを開発し我々のど肝を抜いたと思ったら次々に多種多彩な鑑定書を開発しました。10年程前には全国で発行されているダイヤモンド鑑定書の6割超はこの寿司屋のものであったような気がします、当然ですね、他社は後追いで真似しただけでしたからね。彼らが柔軟な思考のアイデアマン(ウーマン)であったのは多分、鑑定鑑別に関して素人集団であったせいでしょうね。なんせ、社内にGIA.G.G.を持った者がほとんどいない、グレーダーは全て社内教育で育てておりますな。そんなわけで、現在はともかく昔のグレードはひどいものでした。ロットによってはやたらDカラーが出たり、キズのメチャメチャ多いSIがやたらあったり。反対に、GIAでIF(インターナリフローレス)のものが中央軒ではVVS2だったりとかね――ソーターがキズを発見できなくて不安になり、埃をInclusionと信じきってしまったのでしょうな、まさに素人集団!?当然ながら同じグレードが出ていても、お役所モノとラーメン屋モノでは大きく値段に差があったのです。でも、そんなこと余り問題ではなかった、小売店もその辺の事情をよく解って値段設定してましたからね。
しかし、やはり好事魔多し、と申しますか出る杭は打たれるというか、いやとにかく一人勝ちで儲けすぎたのでしょうね、全国に多くの支店を抱えすぎグレーディングに本部のコントロールが効かない支店が何ヶ所か出て来るとともに、それらの特別甘―――いグレードに対して非難噴出、大手デパートと有名専門店の多くが中央軒鑑定書付ダイヤを販売しなくなると一気に流れは彼らに逆流してしまいました。シェアはがた落ち、今では見る影もない『荒城の月』というところでしょうか。

イメージ 皮肉な事に、かつてのラーメン屋グレードをしっかりと受け継いでどんどん扱い高を伸ばしているのがB鑑屋たちなんですねえ。

通称「全宝協」と呼ばれる全国宝石学協会、私は愛情を込めて全豊胸と呼んでおります。
発端はやはりこの漢字変換、偶然の賜物です。常々このワードの漢字変換機能に不満を漏らしておるウキ氏ではありますが、この全豊胸ばかりは非常にお気に入り。ホワイト系よりも色の道、ダイヤモンドよりもカラーストーンが得意なこの鑑定屋にぴったりじゃないかと思っておりますが如何でしょうか。

でも、その得意なはずの色の道で1年ほど前に大きな失策をしでかしましたね、パパラチャの鑑別。カラーストーンに詳しい方に聞きますと、もうどうしようもないミスとか。ダイヤで言うなら、完全にトリートを"天然"とやったのと同じような事態であるそうです。これに関してはサンデー毎日が特集を組んで凄い非難を浴びせてましたけども、あながち偏向記事でもなかった、というのが事情通の見解です。何でこんなバカな事をやってしまったのか、機械に頼りすぎというのがその事情通氏の意見。くだんのパパラチャは余りにも綺麗、それに言葉では言い表せないけどもなんかちょっと・・、と自分の目と経験を信じる他社(これは必ずしもA鑑屋ではない)のベテラン鑑別士は"天然"と出す事に二の足を踏んだそうです。ところが、全国の鑑定屋の中で屈指の資金量を誇る全豊胸、最新の機械を揃えております。機械が白と判断したのだから間違いなかろう、ということで他社がNO、とやった美しいトリート(?)パパラチャを天然で通してしまったそうなんです。あらためて人間の目の素晴らしさと経験の重要性を再認識させられました。
でもね、私は全豊胸を余り責める気にはなれないのです。単純な人為的なミス(もちろんミスはあってはならないですが)、または、善意がアダになった、あるいは良かれと思ってやったことが裏目に出てしまった、そんな印象を全豊胸からは感じられる。
他の鑑定屋が逡巡するなかであえて火中の栗を拾いに行く、たいして儲けにもなると思われないのに、自社の信用というリスクをかけてまであえてやるようなことではないのに、そのあたりの計算が全くなされていない"ボケさ加減"がとにかくご愛嬌でございます。まさに、色気たっぷりの愛嬌、そんな表現がぴったりとくるのではないでしょうか。

今日のところはこのくらいで・・・。
なお、文中に登場する個人名、団体は全て架空のものです、な〜んてね、

南船場人情モノ、楽しんでいただけましたでしょうか。
どこが人情モノやねん、って?
南船場の情景をたいへんVividに描いたとまたまた自画自賛なのですが。
これで物足りない方はぜひともウキ氏の事務所へどうぞ。



◆ Back Number ◆
第20話 UKIカラーで綴った枕草子
第19話 古今和歌集ダイヤモンド語訳
第18話 2006W杯 × Fancy Color
第17話 That's Baseball
第16話 トリノの余韻
第15話 “The Aurora butterfly of Pease”
第14話 Fancy June ...
第13話 ウッキー夜話
第12話 『春のダイヤ人気番付』
第11話 2003年 南船場の秋
第10話 「白シャツ」と「白ダイヤ」にご注意。
第9話 初詣
第8話
第7話 日本の色
第6話 オリンピック随想
第5話 お正月に想う
第4話 ブルーダイヤ、高価とは聞いておられるでしょうがどれほど高価なのか・・・
第3話 同じ赤でもピンクダイアとルビーではかなり色に違いがあります・・・
第2話 新しい「誕生ダイアモンド」なるものを設定・・・!!
第1話 『fantasy』で『fantastic』な『fancy world』へ御案内。