◇◆  ファンシー ストーリー第1話  ◆◇


『Fantastic!!』という英単語にピンとくるのは、多分私と同世代の方でしょう。1960年代後半から1970年代前半にかけての代表的清涼飲料だった<ファン タ>のCMコピーです。あの頃はポカリスエットも桃の天然水もないし、喉が渇いた、何か冷たい物を、といえばコーラかファンタかミツヤサイダーか、という選択肢しかなかった、それがいやなら水道の水か。水道水も今みたいな変な味はしなかったし、まぁこれでもあまり不満はなかったですけどね。
この 『fantastic』を辞書で引くと、空想的な、奇妙な、とても素晴らしい、等の訳語がでています。そして、その次の英単語が 『fantasy』で、空想、きまぐれ、うまい思い付き、という意味だそうです。これらとおそらく語源を同じくする類語が『fancy』です。
『fancy』の訳語は空想、想像、夢、きまぐれ、おもいつき、好み、趣味、審美眼、装飾の、変則な、高級な、極上の、新種の、熟練を要する、等たくさんあります。ダイアモンドの世界では一般的な無色透明で丸い(ラウンドブリリアント)もの以外のものをこの Fancyとして分類しています。
これから皆様をとても 『fantasy』で『fantastic』な『fancy world 』へ御案内しましょう。

無色透明でラウンドブリリアントでなければダイアではない、という人は今では少数派でしょう。しかし、15年前私が初めてベルギーに出張した頃、この考え方はあたりまえでした。当時、WindowsもEメールもなかったし、松坂大輔は5歳だったと考えればしかたのないことかもしれません。松坂くんが少年野球で大物ぶりを発揮しはじめる頃ダイアの世界でも一大変革の芽が大きく育とうとしていました。ときはバブル景気のピーク、ラウンドブリリアントに飽きた消費者からの要望で、ピンクや黄色のファンシーカラー、ハート型や西洋梨の形(ペアシェイプ)などのファンシーカットの物が日本でも市民権を得だしたのです。そして、松坂投手の成長に合わせるかのように、これら ファンシーダイアは順調に日本に根を下ろしてきました。
先程の訳語通り、我々バイヤーはファンシーダイアを買い付ける時、ほんの思い付きからスタートします。ある人はデザイン画をおこして高級そうな枠をつけ、しっかり儲けようと空想します。また別の人は、自分の審美眼からして文句なくきれいだ、いつ売れるや からないけど趣味の合うお客さんはきっと見つかるはずだ、と考えます。
ファンシーダイアの世界は実に奥行の深い、変則な、熟練の要する、夢のある世界なのです。
ヴァレンタインデー 、いかがでしたでしょうか。義理チョコなるもののお世話になり始めてから既に十余年、お若い方々が非常にうらやましい。最近はかたちだけではなく、味も重視されているとかで、なおうらやましい。
ヴァレンタインデーは3世紀帝政ローマのキリスト教殉教者 Saint Valentine にちなんだヨーロッパの祝日である、というのは皆様もご存じのことと思います。この方、非常に立派な聖職者であったに違いないでしょうけど、歴史には何一つ業績とかは記されておりません。恋仲の男女を守ろうとして自らが犠牲になった、とまことしやかにつたえられてはおりますが 、どうも日本人の創作のようです。
イギリスとフランスでは2月半ばから小鳥が連れ合いを求めて飛びまわり始める、という伝承があり、中世においてはこのころから嫁探しが活発化したそうです。たまたま、Saint Valentine の命日が2月14日であったことで恋人たちの日となったというわけです。

言うまでもなく、ヴァレンタインのイメージはハートですね。しかし、これを絵にしてしまうと何か違う、心がこもってないようです。丸みのあるハート型のチョコがうけるのは立体感があるからでしょう。ハート型のダイアモンド、ものすごく立体感があります。優れた職人が研磨したハートのダイアは曲線美と先端のシャープさとを兼ね備え、まさに才色兼備の女性を感じさせます。これに色をつけるなら、もちろんイメージカラーはピンクですね。当たり前すぎておもしろくもなんともない、という方にはブラウンはどうでしょうか。ブラウンというと、茶色じゃないか、そんな色きれいではない、まるでタバコ吸いすぎて真っ黒になった肺じゃないか、とお考えの向きは超古代人です。ブラウンは見ようによってはシャンペンカラーとも言われます。また、本当に赤茶けたブラウンは光の角度とか光線の具合によって少しピンクに見える瞬間があるのです。
ホテルのラウンジで嫌いでない男性とカクテルなんぞ飲んでいる時、シャンペンカラーでハート型のダイアをもらったら、、、。さて、あなたはどうする?まさかカクテルの中にぶちこんでもう一度シェイクしてもらおう、などと考えますか?私は個人的にはそんな女性が好みで、仕事を変えたらぜひおつきあいしてみたいですが、まぁいなでしょう。
その後のストーリーはあなた次第ですが、インパクトの強いアイテムと同意していただけることと思います。

黄色いダイアはどうでしょうか。
1970年代の後半、「幸せの黄色いハンカチ」という映画がありました。私が映画館で観た数少ない中のひとつですが、高倉健、倍賞千恵子、武田鉄也、桃井かおり、といった出演陣のわりとメジャーな作品だったと思います。クライマックスは黄色い布がいっぱい旗めいている下で、健さんと倍賞さんが再開するシーンでした。ウーン、涙、涙、よかったですねー、感動しましたねー、あそこで倍賞さんの左手の薬指に黄色いダイアが光ったのをご覧になりましたかー?美しい輝きでしたねー、ダイアって本当に素晴らしいですね、と淀長さんも水野晴郎もいってなかったですけど、元来、幸せのイメージカラーは黄色であることは間違いなさそうです。黄色の財布を使うとお金が貯まる、という言い伝えもあります。Jリーグの開始から黄色というとイエローカード、警告という悪しきイメージが定着してしまった感も否めませんが、春の菜の花畑を思い出して下さい。立春のころから春本番の桜の季節まで、各地であの黄色い花が咲き誇ります。
菜の花の黄色はつらい時が終わってこれから、という雰囲気をもたらしてくれます 。
コートをしまって、セーターを脱いで襟元を黄色のダイアで飾るのはどうですか。不況イメージの黒い服を脱ぎ捨て、明るい色調のものを着てください。きっと黄色のダイアのネックレスがあなたを引立てることでしょう。


◆ Back Number ◆
第20話 UKIカラーで綴った枕草子
第19話 古今和歌集ダイヤモンド語訳
第18話 2006W杯 × Fancy Color
第17話 That's Baseball
第16話 トリノの余韻
第15話 “The Aurora butterfly of Pease”
第14話 Fancy June ...
第13話 ウッキー夜話
第12話 『春のダイヤ人気番付』
第11話 2003年 南船場の秋
第10話 「白シャツ」と「白ダイヤ」にご注意。
第9話 初詣
第8話
第7話 日本の色
第6話 オリンピック随想
第5話 お正月に想う
第4話 ブルーダイヤ、高価とは聞いておられるでしょうがどれほど高価なのか・・・
第3話 同じ赤でもピンクダイアとルビーではかなり色に違いがあります・・・
第2話 新しい「誕生ダイアモンド」なるものを設定・・・!!
第1話 『fantasy』で『fantastic』な『fancy world』へ御案内。